第97回アカデミー賞® 国際長編映画賞 イラク代表選出 第10回ドホーク国際映画祭 最優秀男優賞 劇場情報

8.7公開

上映収益の一部は、公益社団法人 日本義肢装具士協会へ寄付を予定しています。寄付金は、義肢装具士の資質の向上のための公益目的事業に役立てられる予定です。

一瞬の爆撃で、

メッシに憧れる少年は左脚と夢を失った――。

Introduction

イントロダクション
2015年、アカデミー賞®短編実写部門の最終候補となり世界を震撼させた傑作が、9年の歳月を経て長編映画として新生した。第97回アカデミー賞®国際長編映画賞のイラク代表にも選出され、各国の映画祭で最優秀賞を席巻。主演のハムディを演じたアフマド・モハメド・アブドラも第10回ドホーク国際映画祭では最優秀男優賞に輝くなど、社会派ドラマとして破格の完成度を誇る。

本作に比類なき説得力を与えているのは、主演のアフマド自身が歩んできた過酷な「現実」だ。彼はわずか5歳の時、テロによって片足と最愛の父を失った経験を持つ。そんな彼が、ハムディと同じく、史上最高と称されるサッカー選手リオネル・メッシへの憧れを胸に、不屈の精神で立ち上がる姿は、単なる演技を超えた痛切なリアリズムを体現している。

しかし本作は、逆境を跳ね返す少年の美談では終わらない。どれほど強い意志で立ち上がろうとしても、戦争という巨大な暴力は、何度でも容赦なく彼らを打ちのめす。戦争に翻弄されながらも走り続ける少年と、彼を懸命に支える家族の姿は、希望さえも飲み込もうとする非情な現実のなかで、人間が生き抜くことの真の意味を我々に問いかける。

Story

ストーリー
2009年、イラク戦争下のバグダッド。11歳の少年ハムディは、メッシに憧れ、泥だらけのサッカーボールを日々追いかけていた。しかし、その日常は一瞬の爆撃で崩れ去る。テロに巻き込まれた彼は、病院のベッドで片足を失った姿で目を覚ます。

夢も自由も奪われ、さらに父カディムの仕事への憎悪から自宅を放火された一家は、辺境の村へ逃れる。移住先でも「片足しかない」とサッカーチームから拒絶され、居場所を見失うハムディ。しかし、献身的に支える両親の深い愛が、閉ざされた少年の心を動かしていく。

何もかもが変わった世界で、彼は家族の励ましを糧に、一本の足でもう一度夢を見るために立ち上がる。その不屈の輝きは家族に希望を灯すが、戦争という無慈悲な現実はなおも容赦なく彼らに襲いかかる。

Cast & Staff

キャスト & スタッフ

アフマド・モハメド・アブドラ/ハムディ役

本作が演技初挑戦。2000年代初頭から戦地となっているイラクで行われたハムディ役のオーディションには、身体に障がいを持つ子供たちが100人以上集まった。その中で、彼は運命的なまでに役に合致していた。彼が歩んできた実際の人生は、劇中のハムディと信じがたいほど多くの共通点を持っていたのである。

彼はわずか5歳の時、IS(イスラム国)による爆破テロに遭遇。その非情な一日は、彼の片足だけでなく、最愛の父親の命までも奪い去った。演じるハムディと同じく、史上最高のサッカー選手リオネル・メッシへの憧れを胸に、不屈の精神で立ち上がる姿は、単なる演技を超えた痛切なリアリズムを本作に与えている。

アセール・アデル/カディム役

バグダッド生まれ。音楽家の父と助監督兼舞台美術家の母の間に生まれる。1990年代半ばからドイツに移住しミュンヘンで育った。米国のヒットドラマ『HOMELAND/ホームランド』(シーズン5)のハッカー、ヌマン役で国際的な注目を集めた。

ベルリンのETI演技学校と、演技芸術で高い評価を受ける大学「エルンスト・ブッシュ」で学んだ。ハンブルクのカンパーナゲルファブリック劇場、ベルリンのBAT、フランクフルト演劇劇場での舞台出演を経て、テレビ・ストリーミング作品や映画でカメラの前で活動。クリストフ・ウカシェヴィチ(『カルバラ』)、トム・ティクヴァ(『ホログラム・フォー・ザ・キング』)、エド・バーガー(『ジャック』)といった監督たちと共演し、ドイツの『ブロヒン』、ノルウェーの『ノーベル』、米国テレビシリーズの大ヒット作『ホームランド』など、数々の受賞歴のあるシリーズ作品にも参加している。2021年夏、欧州共同製作作品である本作で、自身の母国であるイラクでの撮影に初めて臨んだ。

俳優業の傍ら、ミュージシャンとしても活動。現在はベルリン在住。

ザフラー ・ガンドゥール/サルワ役

バグダッド生まれ。俳優・監督。ジャーナリズムの世界で数年間活動し、イラクのテレビ局でドキュメンタリー番組の脚本や監督を手がけた。

モハメド・アルダラジー監督の『The Journey(原題)』で主演を務め、俳優としてのキャリアを本格的にスタート。その後、サミール監督の『Baghdad in My Shadow(原題)』で数々の賞に輝き、チャンネル4のシリーズ『バグダッド・セントラル』にも出演。ニューヨークの名門HBスタジオで演技を、METフィルムスクールで映画制作を学んだ。 2018年には、ロサンゼルスのアジアン・ワールド映画祭、マルメ・アラブ映画祭、パリのアラブ世界研究所(IMA)主催のアラブ映画祭のすべてで最優秀女優賞を受賞。同年のアラブ映画センター(AFC)でも最優秀女優賞にノミネートされた。2021年にはIEFTA(国際新進映画才能協会)の「グローバル・フィルム・エクスプレッション」イニシアチブの受賞者の一人に選出された。

サヒム・オマール・カリファ/監督

1980年、イラク・ザホー生まれ。クルド系ベルギー人の映画制作者。2001年にベルギーへ亡命し、2008年にルカ・スクール・オブ・アーツにて映画演出の修士号を取得。

卒業制作の短編映画『Nan(原題)』で、フランダース・オーディオビジュアル基金が選ぶ最優秀フランドル学生映画賞を受賞。その後発表した短編作品『Land of the Heroes(原題)』『バグダッド・メッシ(短編版)』『Bad Hunter(原題)』の3作は、累計100以上の国際的な映画賞に輝く。なかでも『Land of the Heroes』は2013年のベルリン国際映画祭で受賞を果たし、『バグダッド・メッシ』と『Bad Hunter』は米アカデミー賞短編実写映画部門の最終選考(ショートリスト)の10本にまで残る快挙を成し遂げた。

初の長編映画『Zagros(原題)』でも、ヘント国際映画祭やフランドル映画賞、アラス映画祭などで数多くの国際賞を受賞。また、トロントのHot Docsでプレミア上映された長編ドキュメンタリー『Cornered in Molenbeek(原題)』は、Docvilleドキュメンタリー映画祭で最優秀ベルギー・ドキュメンタリー賞を受賞した。

Review

解説
イラクは長らくフセイン大統領の独裁政治が続いていたが、アメリカのジョージ・W・ブッシュ(息子の方のブッシュ)は、「イラクが大量破壊兵器を開発・所有している」として、2003年にイラクを一方的に攻撃。フセイン政権は倒れるが、大量破壊兵器は見つからなかった。なんだかアメリカのトランプ政権によるイラン攻撃を思わせるようなことが、当時も起きていたのだ。

大量破壊兵器が見つからないと、アメリカは一転して「イラクを民主化させる」と言い出す。フセイン政権を倒した後、総選挙を実施する。イラクは少数派のスンニ派と多数派のシーア派に分かれていて、少数派に属するフセイン大統領はスンニ派を優遇し、シーア派住民を抑圧していた。しかし、総選挙を実施すれば、当然のことながら多数派のシーア派が政権を掌握する。政権を取ったシーア派は、スンニ派に対する報復を開始する。かくしてイラクは宗派の違いによる内戦状態に突入する。

スンニ派もシーア派も、それぞれ幹線道路で検問を実施。スンニ派もシーア派も、特有の名前を持っている人が多いことから、運転免許証の氏名をチェックすることで、敵か味方かを判別する。敵と判断されれば、その場で射殺されることも多かった。父親のカディムが、検問を受けて「自分はスンニ派だ」と叫んでいたのは、そんな背景があったからだ。あの検問はスンニ派が実施していたのだ。

当時、イラクに派遣されていた米軍は兵員不足から民間軍事会社に治安維持を丸投げしていた。民間軍事会社は、米軍が後ろ盾になっていることをいいことに、やりたい放題。「テロリスト」と判断した相手には、市街地でも銃を乱射した。これにより大勢の市民が犠牲になったが、民間軍事会社の要員が罪に問われることはなかった。

かくして、イラクではハムディのような少年が次々に誕生することになる。

※ 劇場用パンフレット解説より一部抜粋
池上 彰
ジャーナリスト